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<10>御安全に
今はすでにないプロジェクトの話。15年位前、某製鉄会社でクリーンルームをつくって半導体を製造するプロジェクトが立ち上がり、製造工程管理をしたいというので、何人かで打合せに行った。「大手の会社なんだから、自社のシステム部でやりゃーいいじゃないか」と気乗り薄。部署単位の小さな仕事はシステム部ではやってくれないらしい。
当日○○製鉄の正門前で待ち合わせていざ入ろうと思ったら、守衛さんにストップをくらった。そこのメインは当然製鉄だが、工場に入る人は安全教育講習を終了したというカードがないと入れないのだそうだ。
「そんな話、きいてないよ〜」
「いや工場に入る人は全部受けてもらわないと困る」の押し問答。
「講習を半日受けてもらうからね。ヘルメットや安全靴は? 持ってきてない?じゃ入れません」
打ち合わせをする責任者に電話を入れるけれど不在。
「じゃ、今日は帰って明日また出直してきます」というが、安全講習を受けていないといつ来ても入れないよとのこと。
あんまりやりたい仕事でもないので、同行者に「急ぐこともないから受けていきます?」と聞くと、面白そうだから受けましょう。ということで安全講習を半日受けることにした。製鉄作業に関する注意等がメインの講習であったが、内容は至極ごもっとも。最後に質問は?という問いに、「半導体製造に関する注意が何もないのですが、安全上の留意点はありますか?」と聞くと、「当社は製鉄所です。それ以外の作業員の外注は頼んでいません。どこの協力会社から来ましたか」とかみ合わない話。
終了後、再度責任者に電話をするがまだ不在。仕方がないからまた出直すかと帰ってしまった。好奇心旺盛なmiyaさんだから講習は結構おもしろかったらしい。
ところが、夕方責任者から電話があった。なぜ打ち合わせにこないと怒りを含んだ声で詰問する。そこで、いきさつを説明すると「半導体はそんな講習を受ける必要はない。それは受付が知らないからで、なんで電話しないんですか」などといわれる始末。「だって、あなたいないんだもん」
結局、後で分かったのだが、半導体関係の打合せは工場でなく、事務棟の建物に行けばよかったのだそうだが、背広を着ていかなかったので、守衛さんは製鉄作業に従事する人だと思ったらしい。企業の背広は、人や知識より重要なのかと、なんだか不思議な気がしたそうだ。
帰りに守衛に文句を言うと、相手は協力会社風情にそんなこと言われる筋合いはないといった態度である。新プロジェクトとして作られた部署なので分からなかったらしい。
なんか、行政が運営する機関みたいだねとおかしくなった。
翌日、改めて行ったときも、入り口で同様のことをいわれたが、胸を張って昨日もらった入構証を、水戸黄門様の印籠のように出し、胸を張って入った。その後も入構証をいつも持参し、構内で人とすれ違うときは講習で教わったとおり大声で「御安全に」と挨拶をしていた。芸能界や飲食業界の「おはようございまーす」同様、工場内では「御安全に」が挨拶用語だったのである。
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