| |
|
<16>宴会を逃げる口実
バンドマンは宴会が嫌いである。中日(なかび)や打ち上げは仕事の一部だから仕方がないが、興業先など、関係者のハッタリ親父がタレントと顔つなぎしたいためにやる宴会は辛いので勘弁して欲しい。だいたいにおいて、やれ俺はなになに事務所の社長と親しいとか、誰それの売れないときに面倒を見てやったとか、やれ、この前TV局の何某が挨拶に来たとかいう話の後は、説教まで始めるというパターンが圧倒的。全国的に規約でもあるのかと思うぐらいだ。どこへ行っても同じなんだからとぼやく。
バンドマンたちは会場に行く途中バスやタクシーで見た「これはちょっと覗いてみなければいけないな」という雰囲気のところ(古めかしい暖簾に「めし」などと書かれた店)にあたりをつけているから、ヘタに「はい、今日は宴会ですよ」といわれると、冗談じゃないよ〜とガッカリするのである。
でも、まぁ、しょうがないか。
とりあえずカンパ〜イ。
そこで、きこえよがしに、仲良くしているメンバーに声をかける。示し合わせていなくても、阿吽(ア・ウン)の呼吸である。
「○○ちゃん、今日の1回目の4曲目最低だよ。あれじゃ出だしのところわからないよ」
「なんだよ、おれにそんなこという立場じゃないだろ。50年早いよ」
「生きてねーよ。ちゃんとやんないとさぁ、カンバンに悪いじゃん(←一応ヨイショ)。おれたちカンバンのおかげでギャラもらってるんだし」
「そんなこといったってあんただって4曲目の最後のコーダのところ、全然どうしようもないジャン」
「おれは、そういうふうに書いてあるから弾いただけだよ」
「ちょっと、前からいおうと思ってたんだけどさ〜」
そうやってグダグダ話し、「ちょっと表に行って話さない? ここじゃ酒飲んでる人に悪いから、表、出ようよ。ほかにも色々言いたいことあるし」
「あ、いいよ、おれだって言いたいことは山ほどあるから」
すると、すぐそこへ割り込む人がいる。
「だめだよ、喧嘩なんかしちゃ。おれが間に入って話をするから、穏便にいこうよ」
「お、あんたにだって話したいことはいろいろあるんだよ」
「上等じゃないか、表に出ろよ」
ざーっと表に出る。
旅館を出た瞬間、声も晴れ晴れと
「さぁ、行こう行こう。“めし”っていう暖簾が出てた“いい店”を見つけておいたんだよ」
「バスから見ただけじゃないかよ」
「あの暖簾は間違いない。昨日今日始めたわけじゃないんだから。ベテランだよ、ドサは」
残った現場では……。
「あいつら、心配だなぁ、けがなんかしたら明日の仕事にさしつかえるし、おれ、心配だから、ちょっと見てくるよ」
「それがいいね。一人じゃ殴り合いになったとき困るから、△×ちゃん、一緒に行ってくれる?」
こうして3人が「あいつらの行っているところはだいたい分かるよ」といって、あたりをつけておいた飲み屋に行くと、先の3人が「待ってたよ〜ん」
さらに残った連中。
「あいつら、逃げやがったな。宴会逃げるなんて冗談じゃないよ。何様だと思ってるんだよ。俺が呼び戻してくるから。◇□ちゃん、手貸してよ」
ゾロゾロゾロ。
「待ってたよ。あと残っているの誰」
「親方と3番アルトと4番テナーだけだよ」
「いいよ。3番、4番は、人質においておけば。修業修業」
「気がつかないやつはほっとくの。おれたちだってそうやって修業してきたんだから」
「ところで、この魚うまいねー」
「オバサン、ところでこの魚? え、これがサンマの刺身なの、イワシかと思った」(←当時はサンマの刺身は珍しかった)。
「追加でナマコとお酒」
こうして楽しい時間は過ぎていった。
「もう宴会終わったかな」
「きっと親方、ハッタリ親父とさしで飲んでくだまいてるよ。でもうまいね、魚」
ただし、このやり方は何度もやると、すでに先を見越したタレント事務所のマネージャーに釘を刺される。
「だめだよ、音楽の話しちゃ。みっちり最後までいてもらうからね」
バンドマンのように何の保証もない仕事をしていると、人の指図、人から使われるのはいやというのが基本である。
|