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帰省ラッシュである。私たちは帰省といっても31日に都下の親元へ戻り数日間を過ごして戻ってくる。
miyaさんによると、バンドマン時代、年末はあまり移動の仕事はなかったそうだ。とはいえ、空港や新幹線の様子がテレビのニュースで映ると「そういえばね」と出てくる。かつてはバンドマンなんて過去の遺物だといって話をするのをいやがっていたのに、昔話の評判がいいよといったら、近頃は「話のストックは有限だから1回に1つの話ね」なんて生意気なことを言い出した。O型もおだてに乗りやすいようである。
<19>飛行機は土足禁止
バンドマンの中でも、少々うっとうしいのはすぐに「ジャズとはね」と始まる人である。演劇の世界ならば芝居も下手なのに演劇論を振りかざすタイプ。
新しく入ってきた4番テナーのYさんはかけだしで、ドサや演奏の経験はあまりないのに、やたらジャズ論を振り回す人物だった。
「なんだろね〜そんなに構えなくたっていいのに。悲壮感漂わないとジャズはできないという感覚だからだめなんだよ」
それでいて、Yさんはややトンチンカンなところもあった。
ある日飛行機で札幌に行くことになった。
皆で羽田空港に集合する。当時はANAカードなどなく、友の会のスタンプを押してもらう方式だった(←本当なのか???)
「あれ、友の会のカードどこ行ったかな、しばらく乗ってないから探さなきゃ」
搭乗手続きをしないで探しまくるが、航空会社の人は飛行機がまもなく出発時刻なのに気がきではない。
「早く登場手続きしてください」
「ちょっと待って友の会のスタンプが先なんだから。そんなこといったって乗っちゃったらスタンプ押してくんないでしょ。中でスタンプ押してくれるの? 押してよ。いいよ遅くなったら、直接旅客課の○○さんに話をつけて遅らせてもらうから、ねぇ。マネージャー」
「だめだよ、早くしないと遅れちゃうよ、私はもう押してもらったから」
そんなこんなでバスで飛行機のタラップまで着く(←昔の羽田空港札幌便はそうだった)
ここからが、バンドマンたちのチームワークのよさである。彼らはYさんが飛行機に乗ったことはないことを知っていた。
「あ、だめだよ、靴ぬぐんだよ。中は絨毯敷いてあるだろう。持って上がるんだよ」
スチュワーデスさんは気配を察し変な顔をしている。
「どうか、なさいましたか」
「スリッパ借りるんだよ、ほら100円出して出して。席番号言わないとスリッパ貸してくんないんだからさ」
そこで、メンバー全員が靴をぬいで中に入る。
他の乗客が目を丸くして見つめる中を靴をぶら下げて歩く一行。
「座る前に席番号を言って、ほら、スリッパもらわないと裸足で歩いたって仕方ないでしょ。えーっと、28のAね」
スチュワーデスは何のことか分からないので、「早く座ってください」と丁重な中にもイラダチを押し隠す声。
素知らぬふりしてゾロゾロ靴をぬいで歩いていって、後でやっと気がついたように言った。
「あれ〜、最近、変わったんだね。土足でよくなったみたい、ごめんね。しばらく乗らないからわからなかった。ほら、友の会だってこんなにスタンプちょっとしかなくて、こんなに間が空いてるからさ、変わったんだね。へぇ〜」
Yさんは駆け出しのくせにタバコを吸う。バンドマンは何でもするとお思いだろうが、下ネタやタバコは意外に嫌う。
「だめだよ、タバコ吸っちゃー、離陸するまで禁煙だよ」
「なに、タバコ持っていないかだって」
「私は、タバコ、吸わないのよ」
「どうしてもほしいの?しょうがないな」
「あそこのカーテンあるでしょ、あそこを少し開けて、黙って300円出すんだよ。そしたらタバコ、手に乗せてくれるから、タバコ売ってるなんて公にしてないから、デカイ声出したらダメだよ」
「おれホープしか吸わないんだけど」
「種類は選べないの!」
「札幌行きは、ハイライトと決まっているんだよ」
国内のタバコがまだ80円の時代で、禁煙ランプが消えればタバコを吸ってもよかった。
「本当に行っちゃったよ、どうしてあいつはああやって信じちゃうんだろうね」「いいじゃない、人を信じ切って生きていくのも」「交差点でも、誰もいないと信じて突っ込んで行くのかな。麗しいね」
残った連中は笑いをかみ殺すのに苦労したらしい。戻ってきたら、またサッと仮面のマスクになる。
Yさんは「恥かいたよ」と多少むくれて戻ってきた。
「あ、ごめん、最近変わっちゃったんだね、ごめんね」
この話には続きがある。
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