| |
|
miyaさんが米軍キャンプの仕事とアジア探訪を経て戻ってきてからの話。
夏のある日、知り合いから電話があり
「ロックとソウルをやるバンドでキーボードが見つからないから助けてやってよ。
海兵隊のキャンプでソウルものたくさんやったでしょ」
「NCOクラブ(下士官クラブ)でフォー・トップスとか流行り物とかね。
でもロイクーもんはあんまりやりたくないねー。感覚的に疲れるから」
「2ヵ月くらい、頼むよ。知り合い困ってるのよ」
「場所はどこ?。えっ、ハコなの。・・・2ヵ月くらいなら、ハコもいいかな」
「で、miyaさんはキーボード何もってるの」
「フェンダー・ローズ。スーツケース」
「ハモンドB3とかもってないの」
「そんな物もってないです。オルガンきらいだもん。力んで肩こるし」
「だけどさー、フェンダーローズじゃソウルバンドにならないでしょ、
仕方ないねー。どっかで借りてくるわ」
「ショボイの借りてこないでね。で、いつから? えっ明後日。
長髪にする時間ないじゃないの。
長髪パーマ、踵高い靴、裾広がりGパンじゃないとまずいんじゃないの。
私、何にもそういうの持っていないよ」
というやりとりがあって「借りてきたよ」
「なんだ、Y社の一番ショボイやつじゃん。これ使って仕事しろっていうの。なんだよ、このヒャ〜というコシのない音は」
「弾きたくないからそんなこと言ってイチャモンつけてるけど、ヒャ〜でいいじゃん。雰囲気出てるよ」
親方(バンドマンはリーダーをこう呼ぶ)から連絡があり。
初めまして。なんたらかんたら初対面の挨拶の後
「それはいいとして、譜面はあるの。曲覚える時間ないよ」
「今、やってるのをテープにしてきたから、ハイ、これ、適当にやってね」
「わかった、わかった。じゃ、譜面起こしておきます」
「ちゃんと覚えて弾いてよ、一人だけ譜面見たら格好がつかないから」
「面倒くさいねー。覚えるの?覚えたってしょうがないよ。
どうせコピーバンドなんだからオリジナリティなんかないのに」
「だ・か・ら〜、そんな投げやりな態度しないでよ」
「レコードのとおりやってもね〜」
「日本はそれじゃ受けないんだよ。
客が知ってる曲をレコードどおりにやらないと客にそっぽ向かれるんだよ」
「じゃ、ステージにジュークボックスおいて、その前に座ってりゃいいんだよ。
踵の高い靴履いて、何やるの?
ハイ100円、A-4ボタン押して、とやってりゃいいじゃん。ショーアップして」
というわけで六本木の変なクラブというか、ディスコのようなところで夜の8時から1時ころまでドンチャカドンチャカ、ドンパタドンパタ。
「ハァ〜、耳が疲れるね。
それに、ロックやソウルなんだから、
太鼓さぁ、そんなにお祭り囃子みたいに跳ねちゃだめだよ。
もっとタイトなリズムをつくってよ。俺より8つも若いんだから。
それじゃ浅草、追分酒場の太鼓だよ。
親父の手拍子みたいにテンテコテンテコはねてどうするんだよ。
あんたら年が若いばかりで、どこがソウルだよ、何がロックだよ。
これじゃ馬鹿囃子じゃないか。外人いたら頭抱えて薄ら笑い浮かべるよ」
「ギターさぁ、チューニングメーターなんか使って音を合わせるなよ。
基音で合わせてどうするんだよ、倍音で合わせないとしょうがないでしょ。
耳でやらないと合わないよ。メータ見て目で音楽やるから駄目なんだよ」
miyaさんは早くやめようと思って、若い連中にいやがられるように、小うるさいオヤジをしていた。miyaさん自身、まだ30歳になる前だったが、相手は20歳前後だから、向こうから見ればとんでもないオッサンである。
「私が仕事始めた頃、よくまーこれだけ人をイヂメるネタがあるというくらい
イヂメられたね。自分がされたことは人にするのはやめようと決心したけど、
やって見ると快感だね」とmiyaさん(←このイヂメの内容はまた別の機会に)。
ある日、仕事を終えると、「いろいろ音楽のこと教えてくださいよ」といわれ、六本木のよしのや(←たぶん漢字、あの吉野家とは関係ない・・と思う)というしゃぶしゃぶ屋に行った
(若い連中だから、おしゃれな店に行くのかと思ったら、畳敷きの広間に座るタイプ。メンバーみんなピアスや指輪、腰には金属輪っかのアクセサリージャラジャラ。一番畳に合わないスタイル。
みんな足を崩して横座り。どこかで見た光景だと思ったら、D丁目(新宿二丁目)のオカマバー控え室状態)。でも、肉と野菜が別々に頼めるのは合理的だった。
そこはロックバンドの連中が結構集まってくる店、清酒としゃぶしゃぶにロックはどうみても合わないのだが、なぜか集まってくる。そして、互いに顔見知りで「オレンジ△□のAちゃんは今何やってるの」とか話している。
miyaさん一人だけ浮きまくっていた。
「あの人だれ?」
「今、うちのバンドのキーボードだよ」
「あの人うるさいんだけど一応アカデミックな教育受けてるんだってさ。
いろいろ音楽教わってるんだよ」
すると、質問してきた。
「どうやって譜面とか読めるようになったんですか」
「書いてあるとおり弾けばいいんだよ。わかるでしょ。
1拍、半拍って音の長さ高さが書いてあるんだから、そのとおり弾けばいいんだよ。
さらに、その中から解釈まで読めると本物ですね。
ところで、みんなはどうやって曲覚えるの?」
「レコード聴いて覚える・・・」
「それは、私だってそうですよ。でも、すぐ忘れるから、一応、五線紙に書いておくけど。
レコード聴いて覚えるんだったら、レコードの音はとれるんでしょ、
それを五線紙に書けばそれでオワリ。
譜面読めないとアンサンブル、時間かかるでしょ。録音の仕事もできないよ」
「いいんですよ、おれたちはアーティストだから。時間かけて曲作りをするんですよ」
「あ、ごめんね、おれ、バンドマンだから。
そっかぁ、アーティストと一緒に仕事をさせていただいて光栄です。
ところで、アーティストはピッチがおかしくても、
緊張した音響空間に対しコラボレーションするなどという解釈するわけ」
「ギャハハハハハ」←皮肉がわかっていない。
「でも、楽譜が読めると音楽を分析したりするときに便利だよ。こういう形にすればこういう音楽になるんだって、構造がわかると色々と便利だよ」
向こうの方でしゃぶしゃぶを食べているロックバンドの歌手のネーちゃんがきこえよがしに言った。
「譜面読める人って音楽的にいかさないのよね」
これしきのことで、miyaさんはくじけない。
「譜面読めることと音楽性は別だよね〜。
センスのいいやつは何をやってもできるし、
譜面読めても読めなくても出てくる音は関係ない。
だけど、文盲が小説書いたという話はきいたことがないねー」
などと大人げなく、きこえよがしにやりあった。
急にネーちゃんは話題を変えた。
「最近、私、UFO見るの」
「あ、おれも見た、おれも見た」
「○○バンドの人なんてUFOと交信して、宇宙のリズムを会得したらしいよ」
そこで、miyaさん。
「私、それ1回も見たことないです、UFOの気配も感じたことがないねー」
ネーちゃん曰く「心のきれいな人しか見えないのよ」
「ケッ、ネーちゃん。畳に落ちたハクサイを鍋に戻しちゃだめだよ。
心のきれいな奴が・・・」
かくて、六本木の夜は更けていった。
|