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新刊 2006年12月
絶滅危惧の昆虫事典
東京堂出版
川上洋一著(最凶ダンナ)
本体2900円+税 |
身の回りから昆虫の姿をあまり目にしなくなって久しい気がする。少し前には、東京でも古戦場跡などには、季節ごとにさまざまな昆虫を目にすることがあった。郊外へ行けば里山があり、蝶やトンボ、甲虫。池や小川には、ゲンゴロウやアメンボなど特に珍しい存在ではなかった。
本書は、2006年8月環境省発行の"改訂・日本の絶滅の恐れのある野生生物-レッドデータブック-5 昆虫類"に掲載された393種から100種類を取り上げて紹介している。種類は、トンボ目から甲虫目、蝶目など。単なる昆虫の解説ではなく、昆虫が生息していた自然環境の変化を中心に考察する。
昆虫の分布、生息環境、発生期、減少の原因、詳細なイラスト、生息地域図をもとに、生息した環境が変化していく要因とその結果を著者の視点で分析する。
また、昆虫のすむ環境についても、そのロケーションごとの説明も簡潔なので理解しやすい。
著者の川上洋一氏は昆虫マニアであるが、昆虫ヲタクや自然環境保全原理主義者、環境保護教者ではない。自然についてごく自然な感覚の持ち主である。読んでいてわかるのだが、大声で自然を語らないので極めて読みやすい。
読んでいて思い当たる原因がいろいろあるのだが、特定の業種振興政策というのが昆虫減少の大きな原因となっている。全国で80万社位あるといわれている業種だが、企業を維持するためにとはいえ、もう少しやり方があると思う。
出先で聞いた話。今までは、護岸工事、やれ用水路工事、それ農道舗装工事と生活環境向上を錦の御旗に工事をしていたのだが、工事が一巡してすることがなくなると、今度は環境保護の名目で、造った護岸を壊す工事を始めた。だが、環境のことなんか建前なので、護岸を壊したコンクリートを砕いて川床にしてしまった。川の流れが速くなり、苔がつかず、魚が困っているそうである。
農薬も原因となっている。生産者の高齢化が進む状況で作物の病気予防や、草取りの省力化のため、農薬、除草剤の使用はやむをえないような気がするが、やはり対策を考えなくてはいけない気がする。
観光地化というのも考えものである。自然を満喫しにやってくる人たちが要求するのは、快適な環境で自然を観るという目的なので、湿地帯などでも風呂、水洗トイレを用意して、排水はどこへ・・・というのが東京の近県にあった。草原をドカドカと大勢で歩き回り、大量の雉打ち、お花摘み。必ず水場の近くがその場所になり、別の形で湿地帯になっていた記憶がある。
イトトンボのような優美な昆虫が絶滅危惧に指定されるのは、とてもさびしい気持ちになる。旧華族が、生活に困窮し雑木林などの土地を金貸しに取り上げられ、没落の末、令嬢も水商売に落ち、かくて一族は滅びていくという痛々しい姿を連想させる。
かつて、いるのが当たり前だったものが、ふと気づいたときにはいなくなっているという状況はやはり怖いものがある。今は昆虫。次は・・・、その次は・・・
読んでいて、ふと思った。そういえば、子供の頃に、昆虫網、魚すくい網で無意味に昆虫をとっていたのが昆虫の減少を加速させたのではないかとちょっと不安になった。
現在の身近な自然がどのような状態になっているのかを知るのにぜひ読んでもらいたい一冊である。 |